【ふと思い出した】

昔、レストランのウエイターをやっていたことがあった。
 
使えない店長だったので、ヒマな店だったが、
俺がいろいろやったのが悪かったらしく、
売り上げが伸びまくり、忙しい店になってしまった。
 
前年比170%という驚異的な数字にも慣れてきた頃、
その事件は起こった。
 
それはランチも終わり、ディナーに入る前。
4時頃だっただろうか。
ある高校生カップルがやってきた。
 
まだ若かった俺は、いらっしゃいませ、とか言いながら
適当に帰らすつもりだったのだが、しばらくして注文を聞きに行くと、
彼氏が調子に乗ってこんな事を言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
「びっくりパフェ下さい」
 
 
 
 
 
 
 

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一瞬凍った。
アンタ、極寒ですよ、マジ。
 
ココ、普通のレストランですよ。
プロヴァンス料理って知ってます?
歴史のある南欧料理なんです。
日本人や子供向けに仕方なくオムライスやらパフェやら置いてますが、
と、高校生に言っても仕方ないことだと思った。
 
しかし、
 
「やだ〜」
 
とか言って笑う彼女。
それを見てニヤニヤする彼氏に無性に腹が立った
 
枯れてもここはプロヴァンス
フリーターでも俺はフロアを任されたウエイター。
 
にもかかわらず、ちょっとおイタが過ぎるよな、貴様は。
 
 
 
 
おまえ、許さん。
 
 
 
 
絶対その言葉、
後悔させてやるぜ!

 
(経過時間:5秒)
 

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「そちらのメニューにあるパフェの倍額になりますがよろしいですか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
固まる彼氏。
 
冗談で言ったつもりだろうが、貴様は言い過ぎた。
レストランのウエイターを甘く見るな。
貴様は今までそうやって数々のウエイターやウエイトレスをおちょくってきただろうが、
俺にそんなものは通用しない。
 
 
何故なら俺は、
 
 
 
この店でやりたい放題だからだ。
 
 
 
 
 
 
 
「……は…はい…」
 
 
 
 
 
 
ざまぁみろ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
5分後、一家4人分の食器を楽々片づける俺の手が震え、びっくりパフェが運ばれた。
大皿に乗せられた普通のパフェグラス。
しかしその高さは約50cm。
今にも崩れそうなパフェ。 
 
 
本気でビビる高校生。
厨房は大爆笑。
 
 
 
「おまたせ致しました。びっくりパフェです」
 
「…あ……どうも…」
 
「若干食べ辛くなっておりますので、無理をなさらず大皿もお使い下さい」
 
「……はい…」
 
 
 
さも『実はあるんですよ』的な対応をする俺。
本当にあったのか、と、呆然とする高校生。
 
 
 
 
 
 
 
 
んなモンあるわけねぇだろ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして折角のデートに途中に大した盛り上がりもなくカップルは帰っていった。
 
 
ちなみにレジで丁度パフェの倍額のランチコース(Bコース)を打っておいたが、
高校生はそれに気づいてびっくりしてくれただろうか。