【なだらかな坂道を】

俺はなだらかな坂道を下っている。なんのためらいもなく。今まで気づかなかったのが不思議でしようがないが、この坂道には下ることしか出来なくて、俺じゃなくてもみんな下ってた。坂道の両側には、何もなかった。今まで気づかなかった。この両側には何があるのだろう。何もないと思うけど、理解できない恐怖を感じる。でもそれは本当に恐怖なのかもわからない。そこにあるものは一体、何なのだろう。知らない人が叫びながら、その光とも闇ともわからないところへ飛び込んだ。その人は消滅した。ここからいなくなる、ということだけはわかったが、その人はどうなったのだろう。そこへいくと死ぬのだろうか。それとも、どこか違う世界へいくのだろうか。わからない。ただ、今まで疑問に思ってなかった坂道を下っていることと、両側にはいつでもどこかにいってしまう空間があることがわかった。ふとまわりを見渡すと、老人が満足そうにその両側へ入っていく。そして、消滅した。子供が震えながら両側へすいこまれていく。そして、消滅した。たくさんの人が坂を下り、たくさんの人が両側の空間へ消えていく。若者がなにかにとりつかれたように駆け下りていく。ここは一体、どこなのだろう。このなだらかな坂道は何を意味しているのだろう。わからない。でも、俺はただ、このなだらかな坂道を下っている。両側の空間に疑問と恐怖、そして憧れを抱きながら。